『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!』(みかみてれん)― 「ムリ」は相手に言っている言葉ではない
甘織れな子が高校で最初に手に入れた友達は、学校でいちばん目立つ女の子でした。モデルの仕事もしている王塚真唯。廊下を歩けば連絡先を聞かれ、他校の生徒が出待ちをします。そんな相手とヒミツの友達になれた、というだけでれな子は舞い上がっています。1巻のプロローグは、その翌日の屋上で終わります。真唯がこう切り出します。
すまない。どうやら私は、君をひとりの女性として好きになってしまったようだ— 1巻 32ページ
ページをめくると第一章が始まって、返事はこれです。
いやいやいや……ムリでしょ、ムリ……— 1巻 33ページ
みかみてれんの『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』は、ダッシュエックス文庫の小説です。本編が7巻まで出ていて、ほかにSS集と短編集が1冊ずつあります。イラストは竹嶋えくが担当しています。コミカライズも9巻まで続いています。
「ムリ」は、真唯に向けて言っていない
断られた真唯は理由を聞きます。れな子が返すのは、真唯のどこが嫌だという話ではありません。
高校生活はまだ始まったばかり。なのに、そうそうに真唯と別れて気まずくなっちゃって、そこから他グループに所属するとか……なんか、ほら、お互い嫌じゃん! だから恋人なんていう不安定な関係は、お断り!— 1巻 36ページ
付き合って、うまくいかなくなって、気まずくなって、グループにいられなくなります。れな子が挙げるのは失恋の話ではなく、そのあとに残る三年間の話です。中学をぼっちで過ごした人が、高校デビューにすべてを賭けて、ようやく手に入れた居場所を守ろうとしています。タイトルの「ムリ」は真唯を拒む言葉ではなくて、自分が恋人でいられるはずがない、という自分への値踏みです。
それでも真唯は引き下がりません。恋人と親友のどちらがふさわしいかを高校三年間かけて決めよう、という話に落ち着きます。副題の「※ムリじゃなかった!?」が何を指すのかは、この時点ではまだ分かりません。
好きになる側が、増えていく
2巻ではグループの琴紗月から告白されます。ただしこれには裏があって、紗月さんは真唯に並々ならぬ感情を抱いていて、その真唯への仕返しにれな子を使おうとしています。
一方で、二人はこんな距離感でもあります。妹とケーキを買いに行った先で、バイト中の紗月さんと鉢合わせて、れな子が口走ります。
「……うわ 制服めちゃくちゃかわいいじゃん」
ハッ。今なにか、迂闊なことを口走ってしまった気がする。— 2巻 扉絵
思ったことが先に口から出て、出てから慌てます。れな子はずっとこの調子です。
3巻は瀬名紫陽花です。家族と喧嘩して家出すると言い出した紫陽花さんに付き添って、二人で海沿いの町まで行きます。
旅の終わりで、語り手が入れ替わります。れな子の一人称でずっと進んできた話が三人称に変わって、紫陽花さんが何を考えていたのかが書かれます。花火の下で手を振っているれな子を見た瞬間に、そこまで保っていたものが崩れます。
とっくにこんなにも。
れな子のことが好きだったなんて。— 3巻 257ページ
紫陽花さんは、みんなの関係を壊したくないと思っていた側の人です。真唯とれな子が付き合うのならそれを祝福しようとしていました。1巻でれな子が言っていたのとほとんど同じ理由で、紫陽花さんも降りようとしていたことになります。
3巻にはこのあと「瀬名紫陽花のお話」という章が別に置かれています。題は「だって友達のままがいいの」です。
この胸の高ぶりが恋なんだって、ほんとは最初から気づいていたのだった。— 3巻 259ページ
選ばないでいる時間が、終わる
4巻は、紫陽花さんの告白を受けたところから始まります。ここでれな子は、いつもの返事をしかけて止まります。
なにかを提案されたときに、真っ先に否定を持ち出してしまうのは、わたしの習性だ。— 4巻 13ページ
断るのは癖です。真唯にはずっとそうしてきました。でも同じことを紫陽花さんに言うのか、わたし風情が、と自分に聞き返します。口から出たのは断り文句ではありませんでした。
じかんを……くれませんか……?— 4巻 13ページ
返事を待ってもらうための、死にそうな声です。1巻で並べていた理由が、ここでは一つも出てきません。わたしはこのあたりで、笑いながら読んでいたはずが、れな子が自分への値踏みを書き換えていく話を読んでいるのだと気づきました。
5巻では、待ってもらっているということが別の角度から突きつけられます。球技大会の最中、上の空でいるれな子の顎をつかんで紗月さんが言います。
選ぶというのは、それ以外を選ばないということ。しっかりと、胸に焼きつけなさい— 5巻 367ページ
待ってもらうというのは、まだ何も手放していないということでもあります。そこを、紗月さんが正面から言いにきます。
6巻と7巻は妹の話です。高校デビューのやり方をれな子に教えたのは妹の遥奈で、その遥奈が学校に行かなくなります。6巻の第四章には「わたしにお姉ちゃんができるわけないじゃん、ムリムリ!」という題がついています。
なんだ。わたしは最初からお姉ちゃんの資格なんて、なかったんだ。— 6巻 245ページ
相手が真唯でも紫陽花さんでもなく妹になっても、れな子が真っ先に持ち出すのは同じ言葉です。恋の場面で繰り返してきた断り方が、家族の前でもそのまま出てきます。
合う人、合わない人
掛け合いで押していく話が好きな人に向いています。地の文はほとんどれな子の自意識で埋まっています。一人で喋り続けていて、読んでいるとこちらまで忙しくなります。それから、自己評価の低い人が誰かに好かれてしまう話が好きな人にも向いています。
誰と結ばれるかだけを追いかけて読むと、同じところを回っているように見える巻があります。れな子が自分をどう思っているかが少しずつ動くところで話は進むので、そこを飛ばすと手応えが変わります。
コミカライズはいま9巻とも50%のポイント還元がついています。Amazonが9月に毎週末開催するキャンペーンで、第1弾は9月6日までのようです。1巻は659円で330ポイント。
まとめ
1巻の屋上で、れな子は自分には恋人はムリだと言いました。断った理由は真唯ではなく、失うのが怖い自分のほうにありました。好かれてもいい人間だと、自分を認めていく話です。2020年に始まって、いまのところ本編は7巻まで出ています。2025年からテレビアニメも放送されています。
小説(ダッシュエックス文庫)
1巻購入済み★★★★★4.91,260件¥6827pt(1%)
2巻購入済み★★★★★4.91,159件¥7047pt(1%)
3巻購入済み★★★★★4.91,378件¥7047pt(1%)
4巻購入済み★★★★★4.91,483件¥75938pt(5%)
5巻購入済み★★★★★4.91,180件¥85843pt(5%)
6巻購入済み★★★★★4.9981件¥79239pt(5%)
7巻購入済み★★★★★4.91,040件¥792110pt(14%)
8巻(SS集)購入済み★★★★★4.9626件¥79239pt(5%)
9巻(短編集)購入済み★★★★★4.9569件¥79239pt(5%)
コミカライズ(むっしゅ)
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