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『やがて君になる』(仲谷鳰)― 「好きにならないで」と頼む話

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小糸侑は誰に告白されても何も起きない。少女漫画で読んだような、足元が浮くあの感じが来ない。自分には特別というものが分からないのだと思っている。 そこへ七海燈子が現れます。告白をすべて断ってきた先輩で、侑の話を聞いて「私も同じだ」と応じる人。ところが燈子は続けて、侑を好きになりそうだと言う。そのうえで頼みます。 私を好きにならないでほしい、と。 仲谷鳰の『やがて君になる』は、その願いが何なのかを8巻かけて解いていく話です。 自分のままでいることに意味がないと思っている 4巻に、燈子が侑の部屋のベッドで話し込む場面があります。誰かのようになりたいと言う燈子に、侑は「誰だって多かれ少なかれそういうものじゃないですか」と応じる。それでも燈子が誰を目指せばいいのか分からないと言うので、侑は一度だけ踏み込みます。 侑「……誰かにならなきゃ駄目ですか?」 燈子「駄目だよ」 — 4巻 第22話 「駄目だよ」で閉じられる。 侑の問いは正しくて、正しいから通じません。 燈子はそこを議論する場所だと思っていない。そして続けます。 私のままの私に なんの意味があるの — 4巻 第22話 自分に価値がないという話ではありません。 自分でいること自体に用がない と言っている。だから誰かを目指すしかなく、目指す相手がいなければ立てなくなる。 「好きにならないで」は拒絶ではない その流れで、燈子は頼みます。 侑は私のこと 好きにならないでね? — 4巻 第22話 普通なら、好きな相手には好きになってほしい。燈子は逆を頼む。理由は次のページに続きます。 私は自分のこと嫌いだから 私の嫌いなものを好きって言ってくる人のこと 好きになれないでしょ? — 4巻 第22話 燈子から見れば、自分を好きだと言う人は 空だと分かっているものを良いと言っている人 です。だからその判断は信用できない。好かれた瞬間に、相手への信用が落ちる。 侑になら寄りかかれるのは、侑が好きにならないと言ったからです。 燈子が求めているのは、自分を評価しない相手。 「好きにならないで」は拒絶ではなく、関係を保つための条件でした。 侑はそれを引き受けてしまう ここで侑が黙り込むか、困った顔をして離れていけば話は終わります。頼まれた侑の返事はその場ですぐに出ま...