『はなにあらし』(古鉢るか)― マイペースななのはと、心配性な千鳥の内緒のお付き合い

その日の占いで千鳥の星座は最下位でした。ラッキーアイテムは「背の高い人」。149センチの千鳥の隣には、172センチのなのはがいます。「そりゃ適任だわ」という話になって、なのはが言います。

今日はずっと一緒にいないとね。— 1巻 第1話・前編

つつじの宮女子高等学校の2年生、5月のことです。千鳥のモノローグは「私には、親友がいます。」で始まって、話の終わりでこう続きます。

私の親友は、
私の、恋人です。
でも そのことは、
みんなにナイショ。— 1巻 第1話・前編

古鉢るか『はなにあらし』はここから始まります。付き合うまでの話ではなく、付き合ってからの話です。全13巻で完結しています。

はなにあらし 1巻 書影

第1話は前編と後編に分かれていて、後編はなのはの視点です。書き出しは「わたしには、親友がいます。」で、結びは「わたしの親友は、」「わたしの、恋人です。」です。千鳥は「私」、なのはは「わたし」と書き分けられています。同じ一文が、二人から一度ずつ出てきます。どちらか一方から見た話ではありません。

嵐は、外から来ていない

「花に嵐」は「月に叢雲、花に嵐」から来た言い回しで、良いことには邪魔が入りやすい、という意味です。各巻の紹介文にもこの一節が載っています。ところが1巻を読み終えても、邪魔は外から来ていません。

後編で二人はエプロンの生地を選んでいます。お揃いにしようと言い出すのはなのはのほうです。

じゃ、お揃いで…
だめ。
なんでよ、いーじゃん。女子高生なんてフリーだし。
よくないって。
れーちんもくま子も絶対イジってくるし…— 1巻 第1話・後編

断ったのは千鳥です。れーちんもくま子もいつも一緒にいる友達で、その二人にイジられるのが嫌だと言っています。それなのに断ったすぐあとで、千鳥はこっそりミサンガを渡します。「似合いそうだなって思っただけ!! いらなかったら捨てて!」と言い添えます。

受け取ったなのはが「えーでも、せっかくだからお揃いがよかったなーっなんて!」と返します。千鳥はこうです。

別にお揃いじゃない…とは、
言ってない…けど。— 1巻 第1話・後編

お揃いはだめで、ミサンガは渡します。嫌なのは、お揃いにしているのをれーちんやくま子にイジられることです。

第2話はお弁当です。友達がジュースを買いに離れて二人きりになると、なのはが「あーん。」と言い、千鳥が「やらないって!」と返します。

ケチ!
いーじゃん! 今なら三人もいないんだし!
やだよ! 他にも人いっぱいいるし恥ずかしいじゃん!— 1巻 第2話

三人が戻ってくると、なのはは肉団子を配って、くま子にもれーちんにもあすみにも「あーん」をします。「じゃ、最後は千鳥ね。」と順番が回ってきて、「みーんな平気だし、ぜーんぜん恥ずかしくないって♪」と言います。全員にやってから千鳥の番にする段取りです。そこで肉団子がなくなっています。千鳥のおかずも尽きて、なのはが「おかず、めぐんでくれ〜〜」と言います。

最後に「あ、あー…ん…」とやるのは千鳥のほうです。人目が平気になったからではなく、なのはへの対抗心です。

第3話の1ページ目は、体育のあとの廊下です。とりとめのない話をしている二人に、千鳥のモノローグが重なります。

私たちは…
親友で…
恋人…— 1巻 第3話

「親友で」と「恋人」のあいだに一拍あります。人前に出しているのは前のほうだけです。

誘うのはいつもなのはで、断るのが千鳥です。なのははマイペースで、千鳥は心配性です。断る理由はいつも同じで、みんなにナイショにしているからです。邪魔をしているのは、この時点では二人自身でした。

内緒にしていると、なにをするにも一度相談することになります。お揃いにするかどうかも、人前で「あーん」をするかどうかもです。二人はそのたびに、相手が何を嫌がっているのかを一つずつ知っていきます。

学園祭では、千鳥のほうが待てない

5巻は学園祭です。2年A組はお化け屋敷をやっていて、文芸部の展示もあります。2日目の千鳥のモノローグはこうです。

昨日から、ずっとなのはにくっつきっぱなし…
でもいい感じになったと思ったらお客さんが来たり邪魔が入って…
くっついたり離れたりの繰り返しで…
…なんか…ずっと…
モヤモヤする…— 5巻 第56話

1巻では二人の側にあった邪魔が、ここでは外から来ています。そして千鳥がうるさがっています。ひとりになったところで「なんか私ばっかりイチャイチャしたいみたいな…」と落ち込んで、「キスしたいって思ってるのは…」「私だけなのかな…」とまで考えます。

文芸部の部屋で二人になったときのモノローグです。

なのはといると、
嬉しかったり楽しかったり、幸せだと思うことが多すぎて、
もっと、もっと…
欲しくなってしまう…— 5巻 第56話

そして千鳥のほうから言います。

もうちょっとだけ…
ここにいられない…?— 5巻 第56話

なのはが驚いて、千鳥が「ご…ごめん ダメだよね…」と引きかけます。そうじゃない、今日はずっとよそよそしかったから、となのはが言います。千鳥が続けます。

ず… ずっとその…
ガマンしなくちゃと思って…— 5巻 第56話

「やだよ!」と言っていたのと同じ人です。今度は自分から求めて、ガマンしていたことも自分で白状します。

なのはは、くま子にあと5分で戻ると言ってしまったこと、二人が戻らないと怪しまれることを並べてから、こう続けます。

だから…
次はもうちょっと…
はやく言ってよね!— 5巻 第56話

なのはは戻る時間の算段をしたうえで、次の約束にしています。ガマンしていたと言われたことを責めもしません。言われるまで知らなかった、というだけです。そのあとで千鳥が「好きだよ…」と言います。

この話の最後のコマは廊下です。人が立っていて、「……」「…ウソ…」とだけあります。

誰だったのかは同じ5巻の第60話で分かります。なのはの年下の幼馴染の舞が、自分の側から語り直します。

学園祭のあの日、
なーちゃんが文芸部にいるって聞いて、展示を見に行った。
でも、行ったらドアは閉まっていて、
ヒソヒソ中から人の話し声が聞こえた。— 5巻 第60話

1巻の前編と後編と同じで、5巻も同じ日を二度書いています。第56話が見られた側で、第60話が見た側です。

13巻かけて、千鳥が電車を降りる

13巻の第150話は、千鳥が東京での入試から仙台に戻った日です。駅で友達と別れて、モノローグは「やっとふたりになれた。」の一言です。ホームでの会話はこう始まります。

なんか…前もこんなことあったね。
そうだっけ?
あったよ。忘れちゃった?
ん〜 ていうかいつもこんなことばっかりで…— 13巻 第150話
なんでもない日だったのに、よく覚えてたね。
付き合って割りとすぐの頃だったから、なんか妙に記憶に残ってて…
確かにずっとこんなことばっかりだったね。
ね〜 何も変わってなくてウケる。— 13巻 第150話

覚えていたほうは、付き合ってすぐの頃だったからだと言います。何の日でもない日のことだそうです。

何も変わってなくてウケる、と言った直後でした。なのはが先に自分の駅で降りて千鳥は電車に残りますが、発車の直前に千鳥も降りてしまいます。ホームでなのはの手を掴みます。驚いたなのはに、自分でも驚いた様子の千鳥が言います。

なんか変えなくちゃって。
このまま… また同じこと繰り返すのか〜って…— 13巻 第150話

この時点では、千鳥は自分でも説明できていません。それでもなのはは聞き返さずに待ちます。

か、帰りたくない…
です。— 13巻 第150話

そのあと二人は卒業式を迎えます。前の日の電話でみんなに話そうと切り出すのはなのはのほうで、言いたくなければ無理にとは言わない、と添えます。そのうえで、千鳥がどう思っているかを聞きます。千鳥が口にするのはみんながショックを受けないかということで、その先にあるのは、これからも友達でいてくれるだろうかという不安です。なのはは遮らずに聞きます。

合う人、合わない人

13巻のあいだ、一話まるごとあーんをするかしないかに使われたりします。大きな事件を待ちながら読むと、少し物足りないかもしれません。

読んでいてそわそわするのは、千鳥が言い出すまでの間のほうです。なのはは急かさないので、千鳥が自分で言うまで話が進みません。誘っては断られて、それでもまた誘うなのはと、断ったあとでミサンガを渡す千鳥の、その回り道を一つずつ面白がれる人に向いています。

わたしは駅の場面が好きです。ただ、あそこだけを先に読んでも何も起きていないように見えるはずです。1巻を読んでいるから、電車を降りてしまう場面に驚けます。

まとめ

恋人になったところから始まる13巻です。内緒にしているせいで、二人はなにをするにも一度相談することになります。お揃いにするかどうかも、あと5分いられるかどうかもです。

その積み重ねの先で、千鳥は理由を言えないまま電車を降りて、なのははそれを受け取ります。最後に切り出すのもなのはですが、そこでも千鳥の答えを最後まで聞いています。1巻から順に読むと、どちらも急な話ではないと分かります。

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