『雨夜の月』(くずしろ)― 12巻まで読んだ感想と、合う人・合わない人
耳の聞こえない及川奏音と、ピアノを弾く金田一咲希。くずしろの『雨夜の月』は、高校で出会ったこの二人の話です。20以上の国で翻訳されていて、国内では次にくるマンガ大賞2022のWebマンガ部門にノミネートされています。
聴覚障害を扱った作品として紹介されることが多く、評価されているのも主にそこだと思います。ただ実際に読むと、障害の話と二人の関係の話が交互に進むのではなく、最後まで切り離せないまま並んで続いていきます。どちらかが、もう一方のための仕掛けになっていない。それがこの作品のいちばん変わったところだと感じました。
作品の基本情報
- 作者:くずしろ
- 掲載:コミックDAYS(講談社)/コミックDAYSコミックス
- 巻数:12巻まで刊行、連載中
- Kindle価格:各¥792/Kindle Unlimited 対象外
- Amazonの評価:星4.9前後(2026年8月30日時点)
あらすじ
※このあらすじは1巻の序盤までです。この先の「見どころ」では、9巻あたりまでの場面とセリフに触れます。
金田一咲希が及川奏音と最初に会うのは、高校に入る直前です。ピアノのレッスンに向かう途中でぶつかって手を擦りむいた咲希に、相手の少女は何も言わないまま、落とした楽譜を拾って絆創膏を渡してくる。
入学後にクラスメイトとして再会して、咲希は彼女が及川奏音という名前で、耳が聞こえないのだと知ります。奏音は読唇術で周囲とやりとりをしていますが、障害を理由に自分から距離を取ってもいる。それを見た咲希がどうにか分かり合おうとして、奏音のほうも少しずつ態度が変わっていく、という始まり方です。
見どころ1:障害を「乗り越える」話にしていない
この手の題材は、障害を克服して感動的に終わる話になりがちです。本作はそこに寄りません。4巻に、合唱で耳のことを責められてきた奏音の話を聞いた咲希の、こういうセリフがあります。
何で奏音が壁を乗り越えなきゃいけないの!? 壁の方が崩れなきゃいけないよ!!— 4巻 80ページ
負担を負う側が努力して当然、という前提を正面から否定しています。読んでいて、この作品の向き合い方がはっきりしたのがこの場面でした。
このセリフは、同じ4巻の156ページで奏音の回想としてもう一度出てきます。言われた側にちゃんと残っている言葉として書かれていて、その場の勢いで終わっていません。
見どころ2:奏音が「守られる側」で終わらない
かといって、咲希が奏音を助ける話でもありません。奏音の側にも、耳が聞こえなくなってから自分に遠慮するようになった妹への引っかかりがあり、文化祭を「将来、社会に出た時の試金石」と捉えて臨む場面もあります。8巻では、咲希のことを知る番だと言って、料理経験がほぼないまま咲希の好物のシュークリーム作りに挑みます。
二人とも相手に対して何かを返そうとしていて、そこが一方通行になっていません。
見どころ3:関係に名前がつかないまま進む
咲希が自分の気持ちに気づくのは早いのですが、そこから先が長い。3巻の紹介文にある「知られたくないのに、おさえられない思い」の状態が、読んでいるこちらがそわそわしてしまうほど長く続きます。念のため書いておくと、この足踏みは咲希が自分の気持ちを言えないせいであって、奏音の耳が理由ではありません。
9巻、咲希が発表会の直前に奏音へ言う場面があります。
私…今日の演奏は 奏音のために弾く
聞こえた? 奏音のために弾くから!!— 9巻 20〜21ページ
一度言って、「聞こえた?」と確かめて、もう一度言い直しています。口に出せば済むわけではなく、届いたかどうかを確かめるところまでが一続きになっている。この作品で気持ちを伝える場面は、だいたいこの手間とセットです。
そしてここまで踏み込んでも、関係そのものにはまだ名前がついていません。この距離のまま話が進むことを楽しめるかどうかが、本作が合うかどうかの分かれ目だと思います。
こんな人に向いていると思います
- 決着がつく手前のもどかしさを、長く味わいたい人
- センシティブな題材を、感動や克服に回収せず扱っている作品を探している人
- セリフのない表情やコマの間で心情を読ませる描き方が好きな人
逆に、合わないかもしれない人
- 結末まで一気に読みたい人。連載中で、12巻時点でも関係は決着していません。完結を待ってから読むほうがストレスがない可能性はあります。
- 展開の速い話が好きな人。同じ心情を何度も角度を変えて描くので、進みは遅く感じられると思います。
- 読み放題で済ませたい人。全巻ともKindle Unlimitedの対象外で、12巻揃えると¥9,504かかります。
アニメ化の現況
TVアニメ化が発表されたのは2024年11月16日でした。そこからしばらく続報がありませんでしたが、2025年12月30日にティザービジュアルとメインスタッフが解禁されています。
- 監督:牧野友映
- シリーズ構成・脚本:ヤスカワショウゴ
- キャラクターデザイン:西畑あゆみ
- アニメーション制作:CompTown
- 公式サイト:amayonotsuki.jp
同時に、くずしろの『笑顔のたえない職場です。』からバトンを渡す形のコラボイラストも公開されました。
放送時期・放送局とキャストは、2026年8月30日時点でまだ発表されていません。続報に期待ですね。
単行本側では、9巻の電子版にアニメ化記念イラストと、原作からアニメ制作側に渡されたキャラクター設定資料が特別収録されています。
まとめ
『雨夜の月』は、聴覚障害という題材と、名前のつかない関係という題材を、どちらも決着させないまま12巻続けています。片方をもう片方の盛り上げに使うこともなく、両方が同じ重さのまま並んでいます。
その二つが交わるのは、「これから先どうやって生きていくか」という一点だと思います。3巻で奏音は、一人で生きていけるようになりたい、でもどこでも誰かに頼れたらいいのに、という噛み合わない二つの願いを咲希に漏らします。そして同じ夜、咲希のほうも知られたくないのにおさえられない思いに揺れている。7巻の奏音は文化祭を社会に出たときの試金石として構え、10巻の咲希は音大への進学を勧められて自分の将来を思い描こうとする。そのどちらの場面にも、相手の存在が入り込んでいます。
独りで立てるようになることと、誰かと一緒にいること。本来は別々のはずのこの二つが、二人それぞれの中で同時に起きています。片方を障害の話、片方を恋愛の話に振り分けていないというのは、つまりそういうことです。
アニメが始まる前に原作を読んでおきたい人は、放送時期がまだ出ていないので、慌てなくて大丈夫だと思います。今から追うなら、1巻の電子版にはくずしろの『笑顔のたえない職場です。』第1〜4話も特別収録されているので、作風の振れ幅の違いも含めて読めます。
各巻へのリンク
以下は、わたしが普段使っているKindleストアのリンクです。価格とポイントも載せておきます(2026年8月30日時点)。
1巻購入済み¥792 39pt(5%)
2巻購入済み¥792 39pt(5%)
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この記事の価格・ポイント還元率は、AmazonのKindleストアで2026年8月30日に確認したものです。いずれも変動しますので、購入前にAmazonの商品ページで最新の表示をご確認ください。

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